栄養課題
「見えない飢餓」 で、毎年300万人の子供が命を落としている
「飢餓」という言葉を聞くと、十分な食料を得ることができずにやせた子供たちを連想する人が多いのではないでしょうか。世界の飢餓人口は約8億500万人(9人に1人) と言われていますが、「飢餓」は正確には2つのタイプに分けられます。まず主に紛争や災害、環境の変化によって突発的に食糧が足りなくなることで栄養失調に陥った状態、急性栄養不良があります。一定期間、世界が協力し合って食糧援助することで解決を試みる場合が多く、ニュースとして取り上げられることも多い課題です。しかし、実はこれと同じくらい深刻な別の飢餓の問題がアフリカを始めとした途上国にはあります。それが「見えない飢餓(Hidden Hunger)」 と言われる慢性栄養不良です。
慢性栄養不良はビタミンやミネラルなどの微量栄養素不足によって引き起こされ、免疫力の低下による病気の罹患率の増加、または脳や体の発達障害へとつながります。急性栄養失調のように急激な体重の低下といった見た目に顕著な症状として表れるわけではないため、慢性栄養不良対策は長い間、開発の主要テーマとしては認識されてきませんでした。その結果、5歳未満児童においては実に毎年300万人もの子供が慢性栄養不良を起因とする症状で亡くなっています。 また生き延びることができた場合でも、脳や体の発達障害により就学率や就職率の低下、ひいては将来年収の低下につながり、生活が困窮することも少なくありません。この状態を指し、慢性栄養不良は「貧困の温床」 とも呼ばれています。
発展途上国の人々は食糧支援物資の大半を占める炭水化物の他、体を作るたんぱく質 、そしてビタミン、ミネラルといった微量栄養素の摂取が欠かせないのです。
※1 国連FAO (2014) http://www.fao.or.jp/detail/article/1248.html
※2 JETRO (2010)「BOPビジネス潜在ニーズ調査報告書:エチオピアの栄養分野」
※3 The Lancet (2008) 「Maternal and Child Undernutrition」
※4 JETRO (2010)「BOPビジネス潜在ニーズ調査報告書:エチオピアの栄養分野
栄養改善は開発予算のたったの0.4%しか占めない
慢性栄養不良の課題は専門家の間では長く認識されていましたが、その影響の深さが世界的に注目されるきっかけとなったのは2008年に医学雑誌「The Lancet」が発行した論文のシリーズでした。その後、慢性栄養不良改善を開発の中心的アジェンダに据えようとする動きは広がりを見せています。たとえば、2004年、2008年、2012年のコペンハーゲンコンセンサス においては「栄養素の補給」は国際課題に対する最も経済効果の高い重要な施策の1つとして採択されています。世界銀行も2006年に「Repositioning Nutrition as Central to Development」にて同様の結論を出しています。2010年には国連や二国間援助機関、NGOなどを中心に栄養への取り組みを拡充させようとする動き、Scaling Up Nutrition(SUN)の会議が開催され、2012年にはG8会議で栄養への取り組み強化が約束されています。それでも、2011年の世界の政府開発援助(ODA)額の全体に占める栄養関連施策の予算は、たったの0.4%でした。
今後必要となるのは、「栄養改善に取り組むべき」というキャンペーンだけでなく、「何にどのくらいの予算を割けばどの程度のインパクトを出せるのか」という指針を示す具体的な成功モデルではないでしょうか。
※5 厚生経済学の理論を基にした方法論を用いて、地球規模の厚生福祉に対する優先順位を模索する活動。
ザンビア — 低身長の割合が最も高い国での取り組み
その中で、アライアンス・フォーラム財団はザンビアにて高栄養の食用藻「スピルリナ」を活用した慢性栄養不良改善にいち早く取り組んできました。成功モデルを示すことで、世界に広まった「慢性栄養不良改善が必要」という気づきを、具体的な行動へとつなげることに寄与しています。
ザンビアは旧イギリス領ローデシア地域が南北に分断し、1964年の東京オリンピック開催中に独立を宣言して誕生しました。東京オリンピックの開会式と閉会式で国名が変わったということで日本でも印象深い国となったので、ご存知の方も多いかもしれません。ザンビアには70を超える部族がいますが、民族の平和をベースにした複数政党制を取り入れたことで独立以降安定した政権運営がされています。また東南部アフリカの経済共同体であるCOMESA(Common Market for Eastern and Southern Africa)の本部が置かれており、アフリカの政治経済の重要な拠点であると言えます。
ザンビア共和国について
アライアンス・フォーラム財団は、①安定した政権運営がされていること、②スピルリナ生産に欠かせない水源が豊富にあること、③慢性栄養不良に苦しむ児童が多いことなどを理由に、ザンビアを最初のプロジェクト国として選定しました。
ザンビアが位置するサブサハラ・アフリカは慢性栄養不良の指標の1つである5歳未満児の低身長の割合が途上国平均の32%よりも38%と、途上国平均の32%よりも高くなっています。 そのアフリカの中にあってザンビアを含む南部アフリカは最も栄養状態が悪い地域の1つです。さらにザンビアはその南部アフリカの中で低身長の割合が最も高い国の1つで、5歳未満児童の約半数が慢性栄養不良です。さらに5歳未満児の死亡原因の約8割は栄養不良が原因の1つと言われる病気によるものです。慢性栄養不良への取り組みの緊急性は非常に高く、SUNの優先取り組み国にも選定されています。
そのザンビアにてアライアンス・フォーラム財団は現地事務所を立ち上げ、2009年より栄養不良改善の活動に取り組んでいます。
※5 Unicef (2007)「Progress for Children: A World Fit for Children Statistical Review」