「海外ビジネスに必須なスキル、リフレクションとは」 Part1: リフレクション(内省)とは何か
一般財団法人アライアンス・フォーラム財団(以後、AFF)途上国事業部門(以後、AFDP)の「次世代型グローバルリーダー育成プログラム」(以後、アフリカ研修)を一緒に作り上げてきた熊平美香さんの『リフレクション-自分とチームの成長を加速させる内省の技術』(以後、内省の技術)(ディスカヴァー・トゥエンティワン社、2021)出版を記念し、熊平さんとアフリカ研修を振り返り、リフレクション(内省)と海外ビジネスに関してお話を聞きました。(インタビューアー:原孝友)
- ■ Part1: リフレクション(内省)とは何か
- ■ Part2: リフレクションを通して捉える世界の複雑性と「本当の豊かさ」への問い
- ■ Part3: リフレクション×ビジネス(課題解決と価値創造)
■ Part1: リフレクション(内省)とは何か
――熊平さんには、AFFの評議員を務めて頂き、公益資本主義研修や今回のアフリカ研修(後述)に多大なる協力を頂いています。そして、この度は『内省の技術』のご出版おめでとうございます!大変興味深い内容でした。先ず初めに、リフレクションの重要性に辿り着いた背景をお聞かせ頂けますか?
熊平 ありがとうございます。私が初めてリフレクションの大切さを知ったのは、アメリカのビジネススクールに留学していた時です。当時、アメリカ経済は行き詰まっており、バブル絶頂期の日本企業に学びたいと思っていた時期です。
ケーススタディとして日本企業から何を学ぶべきなのか、教授も学生もリフレクションをしている場で、日本人のあなたはどう考えるか繰り返し質問されながら学んでいました。その後、アメリカはMade in USAなど様々な考え方に基づいた事業活動を通じて経済的に蘇りました。一方、日本はバブル崩壊となり残念ながら経済が大きく落ち込みまた。
私はアメリカで日本経営の強さを学びましたが、日本の中では日本経営の強さとは何かを言える人が少なかったことにとても驚いた記憶があります。上手く行っている時に、リフレクションを行っていれば、なぜ上手くいっているのかを自覚することができます。上手くいっている時もいかない時もリフレクションは凄く重要で、リフレクションを通じて自分たちが何者で次に何をすれば良いかがわかる、ということを学びました。それが原体験ですね。
――日頃からリフレクションを通して、過去-現在-未来を考えることが大事ですね。他にもきっかけはありますか?
熊平 教育を変えたいという強いパッションがありました。その後、活動を始めた中で出会ったのが、2003年にOECDが発表した「キー・コンピテンシー」(主要能力)です。それが世界中の教育指針となったのですが、これからの教育では子ども達は複雑な問題を解決できる力を習得しなければいけない、テクノロジーを活かしイノベーションを起こせるようにならなければならない、自立的にならなければならない、多様性が広がる中で対立を乗り越えられるようなコラボレーションが出来なければならない、など様々なことが書かれています。
その中でも要となる力がリフレクションだと書かれていて、私自身も本当にその通りだと思い、リフレクションについてより深く学び始めた、というのが大きなきっかけとなりました。
――知識を伝達・吸収するだけでなく、自分がどのように学んでいるかを学ぶ力(メタ認知能力)は、正解が一つではなく多様で複雑な社会においては更に重要性が増していますね。具体的にリフレクションはどんなものなのでしょうか?
熊平 リフレクションは自分を客観視し批判的に振り返ることが出来る力なので、自己の内面に向き合わなければいけないものです。ハーバード教育大学院(米国)の先生が行っている「プロジェクトゼロ」の中で「Visible Thinking(ヴィジブルシンキング)」、思考を可視化するという研究があります。学校の授業の中で子どもたちにより深く考えてほしい時、先生が「もっと考えなさい」と言ってもなかなか難しい。そんな時にフレームワークとして良質な思考の型を子どもに渡し、その型をつかって考えたことを他人にシェアするワークがあります。そのアイデアを生かして創ったのが「認知の4点セット」です。内面を振り返るときに「意見・経験・感情・価値観」の4点でチェックすると自分の考えを客観視して確認できるというものです。自分の意見の背景には自分の経験があるし、その経験は感情に紐づいているし、感情は価値観に反映し、そして意見に繋がります。その4点で自分の考えを見つめることができるようになるとリフレクションの質が上がっていきます。
――自分の「意見」に対しては比較的意識が向くのですが、その意見に根付く「経験・感情・価値観」には、無自覚な事が多いように思います。自分は「こうあるべきだ」という意見も、そう思わされている場合があります。例えば、人間の尊厳が奪われている貧困状態にある人が貧困は仕方のないことだと無気力になっている場面があります。こうした場合、内省を通して本来のあるべき姿や、お互いに力づける対話(エンパワーメント)が非常に大事ですね。「認知の4点セット」で確認する際のコツはありますか?
熊平 リフレクションでは事実と解釈を分けることをお願いしています。自分の解釈を加えたモノの見方では本当の相手の世界を見切ることはできない。自分の世界の中で解釈し、自分で想像を膨らますことも理解を深めることも出来なくなってしまいます。だから事実と解釈を分け、知覚した事実を、自分の解釈と切り離す必要があります。何を見てどう感じるか、何を見て何を考えるかは一人一人違う。解釈だけを他者と共有していくと何を見たかも共有できなくなってしまいます。何を見たかが事実の広がりであり、そして解釈が一人ひとり違うということに広がりがあります。2段階での経験をしっかり多面的多角的にみることにつながっているので、これがとても大事です。
――事実と認識している事象にも、自分の解釈が影響していることがあるので、十分注意が必要ですね。
『リフレクション-自分とチームの成長を加速させる内省の技術』
ディスカヴァー・トゥエンティワン社